三体 最終三十話を観終った。怖かったけど迫力もあった。そして茫漠とした関係が少し繋がり、見えてきた!
劉慈欣の著書「三体」は2008年の単行本出版以来20か国以上で翻訳されて累計2900万部を超える売り上げがあったというからすごい。
このたび日本での文庫化が実現し、先頃、ハヤカワ文庫SF「三体」三部作第一部の販売が開始された。早速購入。
文庫表紙帯
観始めていたTV ドラマ「三体」も、少し時間がかかったが最終三十話「智子計画」までをなんとか観終わった。
この最終話タイトルは私が時々ご挨拶することのある智子(ともこ)さんの計画ではないよ。
「智子」を中国語のピンインで記すと「zhizi」となる。(四声は示さず)
これと同じ発音に「質子」がある。意味は陽子(ようし proton)だそうだ。
かつ、この最終話のタイトルには「智恵のある粒子」という意味も持たせている。
今回、ドラマ最終回を見るとともに、併せて中国に関わるドキュメントも視た。
2月8日にアップしたブログに「三体」を視聴しての感想を書いたが、そこでは現在のマスコミ報道から見えてくる中国のイメージ、・・偏見かもしれないが・・と少し違う印象を持ったことに触れた。
たまたまであるが、2月27日朝日新聞コラム「天声人語」で中国映画を観ての思いが書かれていた。映画は「黄色い大地」(監督陳凱歌 1984)だ。映画の中で、中国北西部の寒村で党の任務の為各地を旅する若い兵士が、村の少女に外の世界のことを教え、誰もが平等な理想の未来について誇らしげに語っていた。コラム著者はその正義感ぶりを「何とも宣伝臭く感じた。でも、次に観たとき、これは暗喩かもしれないと気づいた。それは、もっともらしいことを言いながらも党は目の前の不幸な少女一人さえ救わないからだ」と。
朝日新聞2月27日朝刊より
私の感じたこととは少し違うが、三体を見て違和感を感じたことは確かで、それを解きほぐしたいとドキュメントを視た。
何を見たかというと、一つ目が「映像の世紀 バタフライエフェクト 二つの超大国 米中の百年」(2024年 1月24日再放送 NHK)だ。これにより引っ掛かっていたことが少し解けたのだ。
ドラマ「相棒」で水谷豊さん演じる特命係警部の杉下右京が事件の真相に迫っていくなかで突然「繋がりました」と言うシーンがある。事件の全貌が明らかになった瞬間だ。
私も、繋がったのだ。
ドキュメントに出てくる一つは清華大学だ。
この大学、世界大学ランキングで12位であり、アジアでは最高位なのだ。
この大学を通して、いくつかのことで「なるほど」と頷かせてくれた。
一つは主人公のナノマテリアルの研究者であるワン・ミャオも、さらに地球三体協会の精神的なリーダーであったイエ・ウエンジェも清華大学出身であり教授であった。
この大学の誕生は110年前の清朝末期に遡り、アメリカの協力の下、中国の若者をアメリカで学ばせるための予備校「清華学堂」として誕生し、後に清華大学になる。この学堂の出身者にロケット科学者となってアメリカのロケット開発にも貢献した銭学森さんがおり、後に彼は中国で核ミサイルを開発し、人工衛星を飛ばした人となった。清華大学は中国が宇宙と繋がった所だった。
そしてなんと習近平さんも出身者であった。
二つ目は文化大革命のことだ。
「造反有理」の騒然とした中、そこをどう評価し、描くかなのだが、ドラマのなかで「文革」に幾分か批判的なところが伺えたのだ。
地球文明滅亡の危機に追い込んだイエ・ウエンジェは、お父さんが文化大革命の中で殺されていた。その事が現在の自分の生きる地球文明に失望し、三体文明に期待するところとなったとされ、暗に体制を批判するかのようなニュアンスに私は戸惑ったわけだ。
三体文庫本を読みはじめて、はっきりした。
「第一部 沈黙の春 1、狂乱の時代 1967年、中国」
冒頭から血が飛び散る闘争の場だ。
ある大学のグランウンドで批判闘争大会が始まっていた。
そこで、最後に糾弾の対象として壇上に連行されたのがイエ・ウエンジェの父、葉哲泰だった。反動的学術権威として徹底的に吊し上げられ最後に怒り狂った女性紅衛兵達にベルトバックルで殴られ続けて息を引き取った。その前段でイエの母であり葉の妻でもある紹琳も壇上に上がり「あなたに騙されていた。反動的世界観と科学観で私を惑わせていた」と夫を厳しく批判した。それら一切を目の前で見せられていたのがイエ・ウエンジェだった。
文革について幾分どころか厳しい見方が現れていた。
文庫帯
「映像の世紀」を見て驚いた。
なんと習近平さんのお父さんも当時政府の要職についていたのだが、問題のある出版に関わった容疑で失脚させられ、習さん自身も文化大革命の紅衛兵集会に10数回引っ張り出されて糾弾の対象となり、なんと4回も投獄されていた。その後、下放で延安に送られた。それでも1974年に入党し、75年に清華大学に入学している。なるほどと、自分なりに納得。
二つ目に視たドキュメントは「Asia Insight あの日、私たちは勇気を出した~中国"白紙運動"の若者たち~」だ。
これを視聴したのは、ドラマの中の若者たちの風俗が日本とほとんど変わらない印象があり、それを確かめたかったこと、そして彼らの意識の有り様を知りたかったことからだ。
この番組は2022年11月から始まった中国国内でのゼロコロナ対策への不満や、様々な言論統制に抗議する活動の各地への広がりを取材したものだ。
そもそものきっかけは新疆ウイグル自治区ウルムチでのマンション火災で逃げ遅れた住民10人が死亡したことから始まった。原因はきびしいコロナ対策で避難経路が閉鎖されていて救助が遅れたことによるものだった。このことで「国民は人災で命を失った」と抗議が始まった。しかし、抗議は無視された。それどころか、事実を伝える記事や投稿はすべて消されてしまった。「白紙」が用いられたのは、この現状への皮肉からだった。
Asia Insight NHKより
上海での慰霊と抗議、それへの警察の介入などから、この白紙活動がSNSで拡散され広がった。弾圧があり捕縛された人もいたが、その後のゼロコロナ施策は変化していった。
白紙運動は今後、中国国内でどのように継承されていくか分からないが参加した人の声を聞くと一定の方向が見えてくる。
ある人は「白紙運動を経験して同じ考えの人は確実にいて、しかも、少なくないことが分かってきた」「国が植え付ける『正しい記憶』を拒絶しましょう」と語った。
短い期間に、みんなの変化を感じたことは33年前の天安門事件以来だそうだ。どうなることやら。いずれにしても、ドラマの中で見られたやり取りや言動が事実として行われている現実の中国社会の今が見えた。
さて、ドラマのストーリーに戻ろう。
最終話では三体人の侵攻が2年前から始まっていたこと、科学者の自殺や目に写るカウントダウンもその現れであったことが明らかになる。そのことで自暴自棄になっているワン・ミャオらを人類と害虫との攻防に例えながら諦めず闘うことを説いたのは警官の史強(シーチャン)だった。
三体人の艦隊の地球への到達は光速の10分の1を出せる宇宙船であってもあくまでも、その速度は最高速度であり宇宙船の質量もあって加速に時間がかかり結局地球までは400年かかることが分かった。
しかし、三体人はこのまま年数が過ぎれば400年後の地球文明は自分達の科学レベルを凌ぐことになると恐れ地球の科学発展を止める手を打ってきた。それが「智子計画」だった。
それは物質の構造の探求を阻止し、基礎科学を停滞させる手だてだった。
6年前三体世界は水素原子核を光速近くまで加速し、太陽系に向けて発射した。水素原子すなわち陽子(プロトン)は2年前に太陽系に達し、その後地球に届いた。人類科学を縛り、滅ぼす枷となるものだ。第一話からのもろもろの事件はそれによるものだった。
全体を通してもそうであったが、最終話に近づくにつれ科学者たちによる自然、宇宙を巡っての物理学などの理論的な会話が多くを占めた。素人である私などには見たこともない数式やら議論は何もわからないのだが、敢えて理解しようと思わずバックグランドミュージック的に聞き流していた。それはそれでよかった。
ワン・ミャオのナノマテリアルの研究は三体人の恐れる科学成果、その最たるものだった。実際、29話でその威力を見せた。
多国籍企業CEOの御曹司マイク・エバンズ率いる地球三体協会が三体人との連絡手段として使う巨大アンテナを搭載し交信データも保存しているタンカー改造艦艇がパナマ運河を通過している時、その恐ろしさを見せつけた。ナノマテリアルの研究から生まれた細い糸が鋼鉄を切り刻んだのだ。
作戦名は古箏作戦。パナマ運河に琴のようにナノマテリアルの糸を張った。金属であれ人であれ裁断してしまった。
ネタバレとなるので筋書きはこの辺にしておこう。
ドラマとして制作された30話は物語で言えばまだ序章のようだ。文庫版で言えばTV ドラマは第一分冊が終わった所であり、さらに後には「三体Ⅱ 黒暗森林 上 下」「三体Ⅲ 死神永生 上 下」が控えている。今回視聴した30話の四倍もの分量に当たる物語が控えているのだ。



































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